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パンダの目 その2(1)機嫌の悪い秋田先輩

理由は今でも分からないが、5年生の秋田先輩の
機嫌が悪かった。
なぜあの時、あんなに機嫌が悪かったのかと
聞きたいけど、今でも怖くてきけないな。
(というか、忘れているだろうけどね)

新入生を各部屋まで送り届け、それ以外の
全員が、秋田先輩の小ラウンジに集まった。

なんとなく、秋田先輩の雰囲気がちょっと
変なことを敏感に察知していた私たちは、
彼の顔色をうかがいながら、二次会を始めた。

「ま、飲めよ」
案の定、彼は後輩たちに対して、説教を始めた。

どんな説教だったかはっきりとは覚えていないが、
後輩たちが事なかれ主義だということに対して
文句を言っていた記憶がある。

プラスチックのコップに、ウイスキーの
原液が目の前に置かれていた。

酒の弱い先輩たちは、隠れて吐いていた。
どうも雰囲気があまりよろしくない。
いやだな、こういうのは。

posted by ゆうき at 05:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その2

パンダの目 その2(2)突然切れた私

小一時間が過ぎた頃、辛抱強く黙ってことの
成りゆきを見ていた私は、突然切れた。

「秋田先輩」
何を思ったか、私は突然叫んだ。

「ちょっと意見を言っていいですか」
秋田先輩の許可も得ず、私はコワイ先輩に
向かって、説教を開始した。
(こわいもの知らずの時期ってあるよね)

「酒の飲めない人に、酒を強要すべきじゃ
ないでしょう。みんな隠れて吐いているじゃ
ないですか。仕方ないから代わりに私が
飲みますから! もう強要しないで下さいよ」

理論的に言っていると思ったのは、私だけ。

秋田先輩以下、一体コイツは何を始めるんだ、
という呆れた顔の前で、目の前に置かれていた
ワインのボトルを手酌で注いで、かなりの
量を飲んでしまったのだ。

いや、酒好きのさすがの私も、これで酔った。
(らしい)

らしいというのは、どうも、ワインを飲んでいる
最中に、記憶がぷっつりと途切れて、全く
憶えていないのだ。

posted by ゆうき at 05:35 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その2

パンダの目 その2(3)県人会始まって以来の不祥事

それからが大変だった。
二次会が中止になるほどの大騒ぎ。

「福井県人会始まって以来の不祥事」
(そうかな〜、もっとあるけどな)
とまで言われ、医師になった後でも、
この事件のことは、時折蒸し返される。

「あの時は本当に大変だった」
「お前、あの時の傷を見せてみろ」
「俺ら、どれだけ医者から怒られたか」
などと言われる。

偉そうな顔をしていても、この事件のことを
言われると、私はとたんに立場が弱くなる。

何故か、その場にいなかった後輩たちも
知っていて、非常にやりにくい。

ふと頭を触れば、古傷が痛むし…。

posted by ゆうき at 05:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その2

パンダの目 その2(4)真っ赤に染まったトレーナー

翌日、気が付いたら自分の部屋にいた。
ひどい気分のまま、ふと横を見ると、2つ上の
木下先輩と、卒業したばかりの朝日先輩が
いるではないか。

「どうしたんですか?」

びっくりしてそう言いながら、私はぱっと
上半身を起こした。

「うううっ! 痛いっ」

後頭部をひどい鈍痛が襲い、慌てて頭を抱えた。
二日酔いの痛みとは、また違う種類のものだ。

「当たり前だっ! バカやろう」

二人の先輩たちは、ひどい寝不足の顔をして、
不機嫌に叫んだ。

「何があったって言うんですか〜?」
「自分の服を見てみろ」

彼らの言葉にうつむくと、真っ白のトレーナーが、
無惨に赤く染まっているではないか。
枕も赤茶色に染まり、固まった血がばらばらと
落ちている。

「何ですか〜? コレ」
「お前、憶えていないのか?」
「はあ?」

何一つ憶えていない私は、彼らから語られる
その後の出来事を聞き、呆然。
そんな、まさか…。

posted by ゆうき at 05:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その2

パンダの目 その2(5)流血事件

ワインを飲んだ後、一気に潰れた私は、
「まだ飲むんだ〜」と叫びながら大暴れ。

つきあいきれないと判断した先輩たちに、
部屋まで送ってもらう途中で、私はうっかり
足を滑らせた。
(寮内はスリッパだから、滑りやすいの)
注:言い訳

運悪く、その瞬間に、学生寮のサッシの角に
頭をぶつけたらしい。

サッシは鋭利な刃物みたい。
5センチほどのざっくりとした傷が後頭部に。

その傷からかなり大量に出血し、医学生では
手に追えないと判断した先輩たちは、
慌てて二次会をお開きにして、大学の
救急外来まで運んでくれたのだ。

頭は血流が多いから、大出血することも
あるんだよね。
あの出血の多さは、動脈が切れたのだろうな。
更にアルコールが入っているから、尚更
出血が多い。

人によっては頭部外傷で、かなりの貧血に
なるんだよね。
年とった人だと、これだけで出血性ショックに
なることもあるんだよ。
気をつけて。
(て、言えた立場じゃないな)
 
posted by ゆうき at 05:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その2

パンダの目 その2(6)さんざん怒られた私たち

「赤いですねえ。なんですか? コレ」

転倒した直後、私は頭を触り、血だらけになった
手のひらを見て、にたっと笑いながらつぶやいた
らしい。

その手を見た瞬間、先輩たちは大騒ぎ。

「ダメだ! 血が出てる」

白いトレーナーは、傷口から髪の毛を伝って、
ぽたぽたと落ちる鮮血で、みるみる赤く染まった。

タオルで頭を押さえつけながら、救急外来に
走った。

当直の医師からは、さんざん怒られた。
怒られたのは私ではなく、先輩たちだ。
当たり前といえば、当たり前。

「無茶な飲ませ方をするな!」
烈火のごとく、医師は先輩たちを怒鳴りつけた。

「こいつが勝手に飲んだんです」
秋田先輩が真実を叫んでいたようだったが、
当直医にとっては、そんなことはどうでもいい。
posted by ゆうき at 05:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その2

パンダの目 その2(7)無麻酔での縫合処置

頭部レントゲンを撮るにも、ばたばたと
暴れていたため、大きな身体をした朝日先輩が、
上に乗っかって、押さえつけて撮ったらしい。

しかも、痛くないはずだと当直医は叫び、
「無麻酔」で、しかも「一号」という太い糸で
縫合された。
(注:一号の糸って、直径1ミリ弱あるよ)

全く記憶がない。

彼らから聞かされる内容は、何一つ記憶には
残っていなかった。

「どうしましょう…」
事の成り行きを悟った私は、青い顔をしながら、
先輩たちにつぶやいた。

「病院から戻って来ても、お前の意識は
はっきりしないし、アルコールのせいなのか、
頭を打ったせいなのか判断つかないから、
ずっとついてたんだよ」

憔悴しきった顔をして、木下先輩はつぶやいた。

「申し訳ありません」
私は深々と痛む頭を下げた。
posted by ゆうき at 05:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その2
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