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パンダの目 その3(1)イケメンが台無し〜

そして再び、救急外来を受診した。
消毒に来るように言われていたからだ。

「キミみたいな女子学生は初めてだよ」

こちらが謝罪する間もなく、医師は開口一番
そう叫んだ。
顔がひどく怒っている。

怒らなければ目元の涼しげなイケメンなのに、
もったいない。
(私は面食い)

その医師は、J医科大学の卒業生だったのだ。
当時の、優秀で真面目な女子学生と比較して、
そう言ったようだ。

「じゃあ、男子学生ならいいんですか?」
「女子学生なのにって言われるのは心外です」

ふっと心で思ったことが、口をついて出てしまったのだ。
まずい!と思った時には遅かった。

これからの世の中、男も女もないだろう、と
思っていたところだったのだ。

その先生はそんなつもりで言ったじゃないのに、
そんな言葉に敏感に反応してしまったよ。

あまりに無茶苦茶な反論に、先生は言葉を失っていた。
「呆れ果ててものも言えません」という顔をした。
絶句。

posted by ゆうき at 05:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その3

パンダの目 その3(2)キミのことは忘れない

「キミのことは、一生、忘れないよ」
やっとのことで、先生はそう言った。

私はその言葉に黙って頭を下げて、診察室を
出ようとした。

「おい」
先生は背中を向けた私に声をかけた。

「ちょっと待て。コレを拭いていけ」
視線の向こうには、白い壁があった。
白いはずの壁に、赤い何十もの線と、形容し難い
形が残っている。

「何ですか? コレ?」
ちらりと視線を送る私に、先生はとどめをさした。

「昨日の晩、キミが暴れてつけた手形だよ」
そう言うと、にこりともせず、彼はその場を
立ち去った。

私は看護師さんから低姿勢にぞうきんを頂き、
二日酔いの中、血の手形のついた白い壁を拭いた。

その卒業生は、本気で怒っていたらしく、いろんな
場所で、この出来事を語っていたようだ。
(注:本当は守秘義務に反するから、たとえ相手が
学生であっても、決して外では話してはいけません)

私も大学には知り合いが多かったので、いろんな
場所で、そんな情報が入ってきた。

そのイケメン先生、まだ憶えているかな?


posted by ゆうき at 05:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その3

パンダの目 その3(3)先生、あの時はごめんなさい

医師になってから、酔っぱらいの頭部外傷を見るが、
まあ、正直いって、嬉しいとは思わないな。
仕事とはいえ、夜中、寝ずに働いていると、
そんなことでも気が滅入る。

当直の翌日に休みがもらえるのなら、文句は
言えないけど、この仕事、労働基準法もなにも
あったもんじゃない。
当直あけで翌日帰宅、というのは、まずあり得ない。

一睡もしないで真夜中走り回って朝を迎えても、
朝になったら、新しい一日が始まるのだ。
寝ていないことも、激務だったことも顔には
出さずに、働くんだよ。
結構辛いよ、年とると。

徹夜した翌日に働く行為は、酩酊状態と
同じくらいのリスクがあると言われているしね。

本当は医師も看護師のように、完全に時間割で
勤務する体制を整えないと、ダメだろうな。
今の体制だと、医療ミスが増えるのは当たり前だ。

それを考えると、その時のイケメン先生の気持ちが
分かってくるな。

今なら、素直に、謝れる。
先生、本当にあの時は、ごめんなさい!
心から反省していますので、許してね。
posted by ゆうき at 05:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その3

パンダの目 その3(4)パンダの目

私の流血事件は、それから数日、尾を引いた。
赤く染まった服も洗い、髪にこびり付いた血も
きれいに落とし、見た目は元通りになった。
(抜糸はまだ)

しかしその数日後、朝起きて鏡を見た瞬間に、
呆然とした。

顔がパンダになっているではないか!

皮下血腫が目の周りの皮下に溜まり、赤黒く
縁取られたようになっている。
更に左目の結膜の一部が真っ赤に染まり、
結膜下出血を呈していた。

赤目のパンダ。

まあ、今なら、頭部外傷直後のパンダの目なら、
頭蓋底骨折を疑い、早急な頭部CTと専門医受診を
勧めるだろう。
数日後のパンダの目であっても、やっぱり
一度はCTをオーダーしたい。

結膜下出血は自然に治るから、放置だろう。

しかし結局、あれから何の検査も受けずに
元気になった。
今でももしかして、あの時、頭蓋底骨折が
あったんじゃないだろうかと疑っているけどね。

posted by ゆうき at 05:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その3

パンダの目 その3(5)喜ぶ矢間家くん

パンダの目は、それから半月以上、消えなかった。
美貌が台無し。

最初はコンシーラと呼ばれる目のクマを消す
化粧品で、黒くなった部位を塗りつぶしていた。
でも、元通りになるはずもなく、仕方なく
眼帯を購入した。

けがをしてしばらくはゴールデンウィーク
だったから大学にも行かなくてすんだけど、
いつまでも休みは続くはずもない。

眼帯をしたまま、解剖の実習に出る羽目に。
解剖をしていても、片目では遠近感が出る
はずがなく、同じ実習仲間の矢間家より
不器用になってしまった。

いつも私に、不器用だな!と責められていた
矢間家も、鬼の首をとったように嬉しそうな
顔をしながら、私が眼帯をつけている間中、
ご機嫌だった。

posted by ゆうき at 05:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その3

パンダの目 その3(6)名誉の負傷?

「おう、一体どうした?」
おにがわら先生が、なんだなんだという顔を
しながら、実習中に寄って来た。

隠し通せるなどとは、全く思っていない。
地獄耳のおにがわら。

諦めて私は、自分の身に降りかかった災難?を、
ぽつり、ぽつりと語りはじめた。

予習など全くできなかった連休だ。
おにがわら先生の厳しい試問攻撃よりは
自分の恥を語ることをいさぎよく選ぶ。

そして語り終えた後、ホルマリンの
染み付いた手で、眼帯を少しずらし、
見事なパンダの目を見せた。

「名誉の負傷だな」
先生は、ふっと笑うと、そう一言だけ言い、
試問もせずに、無気味な笑いを浮かべて
実習室を出ていったのだった。
posted by ゆうき at 05:40 | Comment(0) | TrackBack(0) | パンダの目 その3
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