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初めての解剖学実習 その2(1)名物先生たち

医学生にとって、解剖学実習というのは、
看護師のナースキャップ授与式みたいなものかも
しれないね。

解剖学実習ほど、医学生にとって象徴的な
実習は他にはない。

しかも当時の教授、助教授は、とっても怖くて、
でもユニークで、個性的な名物先生だったから
なおさらだ。

特に当時助教授だった、おにがわら先生は、
私は大好きだったなあ。

ワンテンポおいて、一言、一言をかみしめる様に
話し、相手の目をきちんと見た。
人の考えていることをすべて見抜くような
鋭さもあった。
そんな独特の雰囲気のある先生だったな。
(今でも変わってないな、きっと)

初めての解剖学実習 その2(2)教育者としてのすごみ

解剖学の先生たちの前では、ごまかしがきかない。

ごまかし、というのは、たとえば勉強不足だったり、
医学に対する姿勢であったり、目の前の御遺体に
対する思いの深さだったり、いろいろだ。

一番基本的で、大切なことを、何よりも重んじる
先生たちだった。
真摯な気持ちで医学を学んでいるか、これを
いつも問われていたな。

だから彼らは、黙っているだけでも、学生たちの
姿勢を変えていったのだ。
これは、教育者としては、すごい力だと思うよ。
学生に絶対媚びないし、甘やかしもしない。

学生は、ごまかせないことが分かるから、
自ずと姿勢が伸びるし、真剣になる。
解剖に臨んでいる時には、いろんな意味において、
緊張感があった。

それはきっと今でも変わらないはず。
そしてこれは、とても大切なことなんだ。
医学を学ぶ上で、何よりも大切なことなんだよ。

解剖学という学問を、この先生達が教えている、
ということの重要性を分かってもらえると
とてもありがたいな。

初めての解剖学実習 その2(3)ホルマリンのにおい

解剖実習の日は、午後に1時間ほどの講義があった。
その日に解剖を行う部位の集中講義だ。

その講義が終わると、暗い北口の階段を降りて、
解剖のある部屋に皆でぞろぞろと入っていった。

独特のにおいがした。
洗濯しても、そのにおいは取れなかったな。

そのにおいを漂わせながら寮に戻った時に、
知らない学生から、「くさいぞ、あっちに行け!」
と、怒鳴られたこともあるよ。

すでに解剖を終えた先輩だったけど、
ちょっと信じられなかったな。
自分たちも、そうやって学んできたのにね。

解剖をやっている学生と、においを知らない
1年生以外は、そのにおいにとても敏感
だったんだろうね。

初めての解剖学実習 その2(4)今から勉強させていただきます

学生4人に、御遺体一体が割り当てられた。
そして、16人の学生に一部屋だった。
クーラーが効いていて、とても寒い部屋だった。

講義が終わると休む間もなく下に降りて、
ホルマリンの染み付いた白衣を身にまとって、
御遺体の前に座った。

そして私たちは、実習を始める前に、必ず、
御遺体に向かって、合掌をするのだ。

「今から、勉強させていただきます」

そのように心で祈ってから、私たちは実習に
とりかかったよ。

この習慣は、最後まで変わらないんだ。

初めての解剖学実習 その2(5)何を学ぶのか

そう、あれは、20歳前後の時期だったな。

御遺体と毎日のように、対面していた
あの時期に、私たちは一体、何を学べば
よかったのだろう。

何を思えばよかったのだろう。
何に気付けばよかったのだろう。

あの時は、一日、一日が精一杯だったな。
解剖という学問に追い立てられ、ものすごい
量の名前を記憶し、あっという間に、一番
大切な時期が過ぎていった。

何を学べばいいのか深く考える間もないまま、
時間だけが過ぎていってしまったのだ。

なぜ、人は生まれてくるのか。
なぜ、人は死んでいくのか。
そんなことをもっともっと、あの時に
考えておけばよかったな。

でも、解剖が終わった後に、そういうことを
考える時間は、たくさんあるからね。

初めての解剖学実習 その2(6)テレビ中継で叱られる

御遺体に向かって合掌し、私たちは実習室の
机の中から、自分用のピンセットとメスを取り出した。
そして、一切、無駄口をたたかないで、解剖を
始めたのだ。

各部屋には、古ぼけたテレビが置いてあった。
時折、教授のテレビ中継(!)があるのだ。

教授の説明がテレビ中継であったり、何かが
起こったらしく、教授が、顔を真っ赤にして、
テレビに向かって、学生全員を叱りつけている
中継もあったな。

テレビがつくと、なんだかみんな、緊張したな。

テレビ中継があると、きまって先生達が
試問しに来るからだ。
口答試問のために、先生たちが部屋に入ってくると、
とたんに緊張した空気が漂ったものだ。

何を質問されるのか。

学生たちはつばをごくりと飲んで、なるべく
先生たちからあてられないように、視線を
反らし、息をひそめていた。

口答試問で答えられないと、目をつけられて、
それから先、毎回のように質問攻めにあうからだ。

私は例の怪我のために、目立ってしまった。
そのために、毎回おにがわら先生は、うちの
ティッシュ(実習机のこと)に来たよ。

でも、私ではなくって、当てられるのは、
ムーミンが多かったけどね。

今でもあんなに試問攻撃を受けたのは、私の
せいだと言い張っているよ。
先日も、ムーミンから、そんなメールが来ていたな。

記憶力がいいのも良し悪しだよ、ムーミン。
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