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初めての解剖学実習 その3(1)夢の中まで登場ムーミン

私たちの班も、他と同じように4人だったが、
その中に女性が2人もいた。
私と、いつも登場するムーミンだ。

このムーミンというのは、どういうわけか、
昨日の夢にも出てきたな。
何か言いたいことがあるのか?!

彼女は、外見は大人しそうに見える。
受ける印象がムーミンみたいにぽわっとした感じ。
黙っていればとてもかわいい。

外見にだまされて寄っていった男性は数知れず。

私は自分で自分のことを扱いにくいと思うけど、
ムーミンほどじゃないな。

同じ班の他の男性2人は、私の強烈な個性と、
かわいい(??)ムーミンのおかげで、
影の薄い存在になっていた。

でも、実習中には、影が薄いというのは、
とても大切なこと。
試問攻撃を避けられるからだ。
いかに自分の存在を消すか。
これにかかっているのだ。

初めての解剖学実習 その3(2)不器用な矢間家くん

男性二人のうちの一人。
仲がよかったのか悪かったのか今でも不明だが、
結構不器用なやつがいた。
矢間家くん、あなたのことだよ。

解剖は左右ペアになって同時に行うから、
予定された部位を確認するまでは終了できない。

「ちょっと! まだ迷走神経出せないの?」
「その鼓索神経、切らないでよっ!」

いつも私は彼を怒鳴っていた。

今は、本当に申し訳ないと反省しているのだが、
ついでだから、この場を借りて、彼の逸話を
紹介しよう。

初めての解剖学実習 その3(3)鼓索神経のない男

私があれほどしつこく忠告したのにも関わらず、
彼は鼓索神経をぶち切ってくれたのだ。
(注:鼓索神経とは、舌の前3分の2、及び
口腔底からの味覚を伝える神経だよ)

教授に怒鳴られ、私にバカにされ、
さすがの彼もどんより落ち込んでしまった。

優しいムーミンは、彼を誘って、
大学の近くの激辛ラーメンを食べに行った。
(なぜ、激辛なんだ?)

私はもちろん行かないよ。

そのラーメン屋は、2倍、5倍、10倍、
50倍、100倍!と辛さを指定できる店。
100倍をすべて食べつくすと、賞金が
もらえるし、更に写真を店内に張り出して
くれるサービスがあったらしい。

失意の矢間家くんは、その店で、なんと、
平気な顔をして100倍ラーメンを食べ尽くし、
ばっちり写真に写ったのだ。
驚く友人たちの前で、汗ひとつかかずに、
彼はあっという間に100倍激辛を食べた。

「矢間家くん、すごいね〜」
ムーミンは、心から彼をほめた。

しかし彼は、賞金を手にしても、写真を
撮られても、暗い顔をして、こうつぶやいたのだ。

「どうせ俺は、鼓索神経を切った男や。
俺には、味覚がないんや〜〜〜〜」

その話を翌日に聞いた私はこう思った。
だったら、神経切るなよな。

初めての解剖学実習 その3(4)危機一髪、矢間家くん

更に彼はその数年後、病棟実習に追われて
いた頃だったな、確か。

寮食堂で夕食をがつがつと食べていた時に、
魚のほっけを頭からかぶりついて、そのまま
噛まずに飲み込み(信じられーん)、食道に、
太いほっけの骨が突き刺さったのだ。

彼には、鼓索神経がないから、味わって
食べる必要がなかったのか。

胸があまりにも痛くて辛かったようで、彼は
そのまま耳鼻科を受診。
緊急内視鏡を受け、緊急入院になった。

食道に太い骨が突き刺さっていて、巨大血腫を
形成し、実は非常に危険な状態だったのだ。

運が悪ければ食道穿孔。
これは縦隔炎を起こし、死ぬこともある。

私の頭部外傷流血パンダの目事件より
はるかに重症だ。

初めての解剖学実習 その3(5)治ってよかった、矢間家くん

耳鼻科の担当医の説明だと、もしかすると、
全身麻酔下に食道鏡を入れ、程度によっては
開胸手術の可能性があると聞いて、さすがの
私もものすごく真剣に心配した。

矢間家くん、今までいじめてゴメン。
もう二度と、怒鳴らないから、また元気な
顔をして戻ってきてくれ〜と真剣に祈ったよ。

一番心配してくれたのは、耳鼻科の教授だったらしい。
学生のことをとても大切にしてくれる先生だった。

私の必死の祈りが効いたのか、彼は幸運にも
手術することなく、自然に骨は落ち、
1週間くらいの入院でまた寮に戻ってきた。

戻ってきてから、ようやく私は、心から
彼をバカにできたよ。

「よく噛まずに食べるあんたが悪いっ」

バカにされて、初めて、うれしそうな顔をした
矢間家くんだった。

その頃から、彼の不器用だけどとても誠実な
人柄が理解でき、少しだけど、尊敬するように
なったな。

初めての解剖学実習 その3(6)不器用さも大切な資質

医者って、仕事ができて器用で、頭の回転が
速い人もいいけど、不器用だけど、誠実で、
穏やかな人も、案外、向いていると思うよ。

器用な人は、比較的若い時期に認められるから、
自分の優秀性を自覚することができるだろうけど、
案外、長続きしないものなんだ。

頭の回転が速すぎて、じっくり仕事、できない
からだと思うよ。
持続力がない人が多いかもしれないね。

きっとね、本当に偉くなっていく人っていうのは、
不器用だけど、コツコツとじっくり仕事をしていく
彼のようなタイプかもしれないね。
ゆっくり人から認められるような、そんな人。
大器晩成型って言えばいいのかな。

彼は今、学生時代からの夢だった精神科を選択し、
忍耐強く、辛抱強く、人の話を聞いている。
とても私には真似のできない仕事をコツコツと
しているよ。

学籍番号が彼と隣で、6年間、彼と共に
ごく近くで学んでこれたことが自慢かな。

しかし、解剖のストレスを、彼をいじめることで
解消していた、ということは、人のいい彼は、
知らないはず。うっしっし。

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