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J医科大学 ちょっと変わった入学式(1)入学式の朝

翌日になった。
入学式の朝だ。

「ドンドンドン」

うーん、新聞代なら、もう払ったよ。
寝返りをうちながら、そうつぶやいた。

「ドンドンドンドンドン」

うーん。
眠い目をこすりながら、ぼーっと起き上がった。
いやに小さく、みすぼらしい部屋。

それに時々、ゴーっと激しい音が近くで聞こえたりもする。
ここは一体、どこだ?

そう思った瞬間、覚醒した。

ああ、ここは大学だった。
浪人していた東京江戸川区のワンルームマンションではない。
もうあの部屋じゃない。

激しい音は、東西線ではなく、新幹線の音だった。

浪人していた頃の部屋よりはレベルは格段に落ちるが、
目が覚めるのなら、この埃っぽい部屋の方がいい。

そう思いながら起き上がった。

「ドンドンドンドン」という音は、一体なんだ?

朝に弱い私に不信感をよせる両親、特に几帳面な父親が
入学式の始まるだいぶ前(ほんとにかなり前)に
部屋まで起こしに来てくれた音だった。

「はいはい、おはよう。もう起きて準備をしなさい」
そう言いながら、両親はどかどかと部屋に入ってきた。

母親は、くまとウサギを見て、また顔をしかめていた。

J医科大学 ちょっと変わった入学式(2)親ばか集団

私は紺のスーツを着て、定刻にご近所を誘い、
颯爽と入学式の式場に歩いていった。

まったくあたりは親バカばかりだ。
(うちの親含む)

部屋の写真を撮りまくり、部屋の前でも撮り、
ラウンジの風景を撮り、なぜか薄暗くて薄汚い
洗面所も撮り、学生寮の前で撮り、互いを撮り、
銀杏並木道のど真ん中でポーズをとり、
長い時間をかけてようやく会場にたどり着いた。
(はあ〜、ためいき)

その頃、私は写真が嫌いだった。
(今でも嫌い)

親孝行だと思って、笑ってあげたつもりだったが、
後で写真を見ると、カメラをにらみつけていた。

J医科大学 ちょっと変わった入学式(3)来賓席にいつか座るよ

そうして入学式が始まった。

ありがたい学長先生のお話の途中で、感極まって
泣いている父兄がいたのにはびっくりした。

だって、声を上げて泣いているんだもん。

それにつられて涙ぐんでいるのは、うちの両親だ。

入学式や卒業式は、当事者にとっては、やはり
人生の中の、輝かしい1ページだろう。

講堂のステージの上に、偉い人たちが椅子に座って
ずらっと並んでいるのを見るのも初めての体験だった。
偉い人なので、本当に偉そうだった。
(いつかあの来賓席に座りたいものだ)

必要以上に、そのお偉いさんたちを写真に収めている
父兄も大勢いた。
(注:芸能人はいないよ)

J医科大学 ちょっと変わった入学式(5)福井の隣は三重県?

入学式の後は、新入生歓迎のパーティーだ。

北海道から沖縄まで、県ごとにずらっと机が並べられ、
ご丁寧にも机のど真ん中に「○○県」と習字で書かれた
札が立っていた。

更に、昼食を兼ねた、めちゃくちゃ豪華なお弁当が
並べられていた。
(これはね、ほんとに美味しいよ)

私たちの大学は、最初は個性というものは名前ではなく、
出身県、というところが面白い。

各県から1〜3名を選別するというJ大学に特有の風潮だ。

私は福井とでかでか書かれた札の前に、一緒に入学した
同じく福井出身のよこちゃん(注:男)と座った。

そのよこちゃんとは、入学時から、
その後、10年も一緒だった。

大学の6年、研修期間での2年、そしてその後の
赴任先も外科(ちなみに私)と内科(よこちゃん)で
仲良く同じ病院に赴任して2年。(計10年)

つかみどころのない、不思議なキャラの持ち主だった。

福井の隣は、なぜか三重県と滋賀県。

その三重県の二人は面白い人たちだった。
一人は、ムーミンという女子学生。
つつけば泣きそうなかわいげのある印象なのに、
人を見る目があると言われる私でもだまされた。
外見だけで、中身は全く逆だったのだ。

もう一人がぶっとびこてつ。
あのキャラクターで本当に医師の仕事をしているのかと
不思議に思うが、ムーミンに言わせると、立派らしい。

J医科大学 ちょっと変わった入学式(4)ゴウタロウくん

新入生の挨拶は、神奈川出身のゴウタロウくん。
彼は入学時の成績がトップだったのだ。

銀縁メガネをかけ、いかにも、おお、あなたは
できますね〜という風貌の彼だった。

学生時代は勉学にも秀でており、バイオリンも弾けた。

かつ見た目もいいから、少しは嫌われそうだが、
ふとした拍子にぼけをかます。
そこがなかなか魅力的な人だった。

「ゴウちゃんに、バイオリン弾かれた日にはたまんないよね」
「僕にも、口きいてくれたよ」
と同級生から言われていた。

彼も今、とても優秀な医師だ。
産婦人科と泌尿器科と両方できるらしい。
すごいね、ゴウタロウくん。


J医科大学 ちょっと変わった入学式(6)抱負ってか?

「一人、一人、これからの抱負をお願いします」

いきなりである。

学長先生から簡単な挨拶と乾杯が終わったあと、
いきなり学生たちにマイクが渡り始めた。

しかも北海道からの順番だった。
まじめな人ばかりだから、型どおりの挨拶だろうと
思ったのが間違いだった。

あの、こてつである。

「すきよ〜、あなた〜、いまでも〜〜」
何の予告もなく、「雪国」という演歌を、歌い始めたのだ。
(同級生のみんな、このシーンを覚えているか?)

マイクなどなくても、すみずみまで通る馬鹿でかい声で、
熱唱した。
皆、唖然として彼を見つめた。

やってくれるな、こてつ。

思えばこれが、彼のパフォーマンスの始まりだったのだ。

それから6年、私たちは彼のおかげで退屈せずにすんだ。

戦々恐々としていた実習の日々も、
彼のキャラクターのおかげで乗り越えることができたのだ。

こてつ、ほんとにありがとう。

彼はその後、結婚するときに、それまで持っていた
ぼろぼろの服を、奥さんになる人がすべて捨ててしまったらしい。
それ以降、彼の格好が普通になったとムーミンが言っていた。

そんなこんなで入学式は滞りなく?終了した。

しかしこれからの学生生活が大変だったのだ。
(予告)
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